赤穂屋本館

イルミネーション

 視界の端から端まで、見渡す限り一面の灯り。飾り付けられた電飾たちは赤や黄、青など様々な色に灯って訪れた人たちを歓迎していた。

 今まで、通りにある少し大きな家や商業施設などでツリーなどのイルミネーションを目にすることはあったものの、ここまで大規模なものを見に来たのはタキオンにとって初めてのことだった。自分の専門はいわゆる化学や生物学であり工学には明るくないのだが、それでもこれほど大量の電飾が同時に輝くところを見るとそのメカニズムや電源への負荷などといったことが気になってしまい、これだけの負荷に耐えうる電源や電球を生み出した人物に尊敬の意を表したくなる。

「ほう……これは素晴らしいね」
 タキオンは思わず驚嘆の声を漏らした。そんなタキオンの声を聞いてデジタルが振り向く。隣で緊張している様子だった彼女の瞳は少し緩んでいた。

「ほ、ほんとですか……! よかったです……」
 デジタルはそう返すと、イルミネーションの方に顔を向けた。

 今日、もともとタキオンとデジタルは学園近くのショッピングモールまで買い物に来ていた。タキオンの次の実験にデジタルが参加するということで、主に薬品や実験器具などを求めてやってきたつもりだった。だがしかし年の暮れと言えば有馬記念、そして冬の祭典だった二人にとって、今日この日がクリスマスだということをすっかり忘れていた——二人が寒空の下街にくり出すと、そこかしこに色とりどりの電飾たちが溢れ、街の雰囲気はすっかり浮かれていたのだ。普段は目的を果たした後はすぐ寮に帰る二人だったが、浮ついた空気に押されて一番近くでイルミネーションを催している公園までやってきたのだった。

「あたし、イルミネーション見るの久しぶりですけど……キレイですねぇ……」
「そうだねぇ」
 タキオンが自分の肩の下に視線を落とすと、デジタルは髪とマフラーの間から目を輝かせていた。いつもは透けるような空色の彼女の瞳に様々な色の光が乗って、まるで虹のようにきらめいている。どうやら彼女は自分と違って、純粋に灯りの美しさに目を奪われているらしい。

 きっとデジタルがいなければ、自分はわざわざイルミネーションを見に公園まで足を運ばなかっただろう。自分にはイルミネーションは残念ながら電飾の集合体にしか見えないけれど、それでもここまで見に来たことには自分にとってきっと何らかの意味がある。隣でイルミネーションに感動している彼女を見ると、なんだかそう思えて仕方がないのだ。また一つ、デジタルが自分を新しい世界に連れ出してくれた——そうタキオンは思った。

「デジタル君、今日はありがとう」
「ヒョエッ!?」
 タキオンが感謝の言葉を述べると、デジタルの耳は一気に起き上がった。こちらの顔を見ながらわなわなと震えている。

「また君と、こういうところに来たい」
「ヒイイ!?!?」
 見る見るうちにデジタルの顔が赤くなって、ハアハアと呼吸が乱れだした。タキオンにとっては今の純然たる気持ちを伝えたつもりだったのだが、デジタルにとっては少し刺激が強すぎたようだ。今夜はもう少しイルミネーションを見たら帰ろう。これ以上大切な実験対象であるデジタルに無理をさせるわけにはいかない。それに、もう少し彼女とイルミネーションを見れば灯りに感動できる人たちの気持ちが少し分かりそうな気がするのだ。

 タキオンはデジタルとイルミネーションを眺めながら、やはりまだ「次のクリスマスも君と過ごしたい」という言葉は来年まで取っておこうと考えたのだった。