赤穂屋本館

君が一緒なら

「あの、タキオンさん、その……」
 デジタル君が今までにないくらい思い詰めた顔で話し始めたから何かと思ったら。

「……あたし……タキオンさんと、結婚式、したい……、です」
 ——なんだ、そんなことか、と思ったのが私の率直な感想だった。

 デジタル君が私とそんなに結婚式を挙げたいだなんて思っていなかったのだ。

「ほう、結婚式かい」
「……はい、あの……その……、タキオンさんとの関係を、……いやぁ、今のままでも十分幸せなんですけどぉ……その、もっと、形のあるものにしたくて」

 ——私は、私たちの関係はそんな他人に定義されるような関係性ではないと愚かな勘違いをしていたようだ。私たちだけが良ければいいだなんて、傲慢極まりない態度だったに違いない。

 デジタル君の不安を解かしたい一心で、その小さな体を抱きすくめた。
「そうだったのかい。気づかなくてすまなかった、デジタル君」
「あ、あ、う……、ごめんなさい、こちらこそ、急にこんなこと」
 謝りつつも腕の中の恋人が柔らかく弛緩するのを感じた。

「君のことだ、もう挙式のことについては大なり小なり調べてあるんじゃないのかい?」
「うぁ……は、はいぃ……」
 抱えていた腕を離すと、これ以上ないくらい紅潮した顔で彼女はふらふらと自分のスマホを取りに行ってくれた。画面を覗き込むと、彩やかな挙式の写真が何枚も表示されていた。

 この子は、私に内緒でこんな世界に憧れていたのか。デジタル君は私と一緒に、この世界に飛び込んでみたいのか。結婚式のことについてはもちろん知っていたが、自分が挙げるだなんて考えてもみなかった。
 正直、それまで私は結婚式に一つも興味なんてなかった。その意味が見出せない——たった一日に、出来事としてどんなことをしようとも、二人の関係性は本質的には変わらない——そう思っていたのだ。

 今までデジタル君が飛び込んできた世界というのは、私が知る限り全て自分の専門外だったと思う。漫画や小説の自家出版、ライブイベントの参加、ファン活動——。初めは、彼女から趣味の話を聞いてもあまり理解できず彼女を困らせてしまったこともあった。だが最近は少しずつ概要も掴めてきて、もちろん彼女ほどではないもののその魅力も少しずつ理解できるようになってきた。

 だから結婚式だって、私が未だ知らない魅力に満ちているに違いない。
 デジタル君と長い時間を過ごしてきた私だからこそ、出せた結論だった。

「なるほどねぇ。それで、デジタル君はどんなドレスが着たいのかな? 今から決めようじゃないか」
「えぇ!? 今からですか!?」
「あぁ。君があんな顔をしながら言ってきたということは、相当前から結婚式のことを考えていたんだろう?」
「アッ……ヒィ~~……!!」
 まさに図星、と言わんばかりのデジタル君の顔を見て、自然と笑みが零れる。

 私はデジタル君の手を握って、スマホの向こうのまだ見ぬ世界に目を落とした。