赤穂屋本館

朝日

 タキオンさんは傍若無人だ。

 一緒に街を歩いているときにずっと上の空だと思っていたら、急に何かを思いついて、すまないと言いながら突然自分の研究室に一人で戻っていったりしてしまう。
 自分の好きなことを研究しているタキオンさんの横顔は好きだし、そもそもあたしなんかがタキオンさんとお付き合いしていることが奇跡に近いことだから我慢もするけど、やはり寂しいときもある。

「デジタル君、今日は研究室に泊まり込みになりそうだ。すまないが今夜は一人にさせるよ」
 だから、タキオンさんが自分の動向をこうやって自分から話してくれるのは少し違和感があった。
 今までも研究室に泊まり込みになって朝まで帰ってこないのは何回もあったが、はっきりと予定として報告してくれるのは初めてだった。

「分かりました! それにしてもタキオンさんがこうやって事前に報告してくれるなんて、珍しいですね〜」
 あたしの言葉を聞くと、タキオンさんは柔らかい笑顔を浮かべる。

「いや、そうなんじゃないんだ。たまにはカフェとも過ごさないと拗ねてしまうんでねぇ」
 カフェさん。
 タキオンさんと親しくしておられる青鹿毛のウマ娘ちゃん。
 タキオンさんの研究室の半分はカフェさんの個人スペースとして使われている。そして今夜はそのカフェさんと過ごすと明言している。それって、つまり……。

「カフェさんとお泊りってことですかぁ!?」
「ああ、そうさ。なんだか私が最近君とずっと一緒にいるからか、カフェの機嫌が悪いんだ。明日は休みだし、折角だから今の研究を出来る限り進めようと思って」
 そう言ってタキオンさんは、自分の机からノートを数冊脇に抱える。
 少し前のあたしだったらこんな台詞を聞いたら最後、延々とタキオンさんとカフェさんの妄想を繰り広げていただろう。

 ――でも今はなんだろう、行ってほしくないような。

「そうなんですね! そういうことでしたら是非!行ってあげてください!」
 自分の気持ちを塗り潰すように、明るい声でタキオンさんを促す。

「ありがとう。じゃあおやすみ、デジタル君」
 タキオンさんが軽く抱きしめて背中に手を回してくれる。
 ずっとこんな時間が続けばいいのに、と思った瞬間タキオンさんの体温が離れていった。いつもより強めに抱きしめ返したこと、タキオンさんにはバレていないだろうか。
 タキオンさんが部屋を出ていった後、あたしはなんとなくタキオンさんのベッドに背を向け、布団を抱きながら眠った。

 いつもタキオンさんと一緒のベッドで寝ているわけでもないのに、その夜はタキオンさんのことが気になってなかなか寝付けなかった。毎晩寝る間際まで交わす、他愛も無い会話が凄く恋しかった。