接近戦
「ねぇジョーダン、メイク落とさずに寝るつもり?」
後ろからシチーの鋭い指摘が飛んでくる。
……バレた。
「メイク落とさずに寝るのがどんなにヤバいか、アンタもわかってるはずだけど?」
シチーの声色が冷たい。
うん分かってる、と顔を合わせずに心の中で返事する。
ホントかどうかはわからないけど、メイクを落とさずに寝るのは顔に雑巾を乗せて寝るようなものってウマスタで見た気がする。だからあたしは勿論、顔が商売道具のシチーはクレンジングにも人一倍気を遣っている。これはあたし達ウマ娘だけじゃなくて、人間でも化粧するような人達は皆そうっぽい。
でもあたしがメイクを落とさずに床に就こうとしたのには理由がある。あたしはなるべく悲壮感を演出しながらこう言い訳した。
「だってぇ、シチーにガチすっぴん見せるの初めてじゃん……!」
振り向いてシチーの方を見ると、すっぴんでもなお輝きを放つシチーの顔があたしを迎え撃つ。ファンデなしでその肌の綺麗さは反則っしょ……!
あたしが考えていることなんてつゆ知らず、シチーはため息を吐く。
「別に初めてじゃなくない? 夏合宿でも見た気がするし、大体アンタたまにウマライで自分からメイクの解説ファンにしてるでしょ」
「違うし! みんなで遊んだ時は薄メイクだったし、ウマライは加工してるもん! シチーの前でガチすっぴんは初めてなの!」
つい声を荒げてしまった。
あ〜〜もう、あたしのバカ! いくらシチーと二人で初めてのお泊まりだからって、ちょっと緊張しすぎじゃん……!
「……ねぇ、そんなにすっぴん見せるのヤなの?」
シチーが近付き、こちらを見詰める。アイスブルーの瞳が揺れている。不安げな表情でもシチーの顔はキレイで、ますますあたしは自信を無くした。
「……だって、あたしのすっぴん見たらゲンメツするかもじゃん、100年に一度の美少女にあたしが勝てっこねーし」
あーあ、言っちゃった。こんなこと言われてもシチーは困るだけなのに。指を前で組んで、この日のために買い揃えたおろしたてのパジャマの裾を見つめる。
「幻滅なんかするわけないじゃん」
シチーの声が聞こえた。
「……その、髪の毛下ろしてるだけで、普段と全然印象違って、可愛いし。すっぴんもちょっと見たいな、なんて」
段々声が小さくなる。いつもより余裕のなさそうなシチーの声。
胸が高鳴る。あたしがはっと顔を上げると、決まり悪そうに視線を逸らされてしまった。耳も寝てしまっている。
「……今の、ホント?」
思わず聞いてしまった。
「………」
「ね、シチー、何か言ってよ〜〜……」
あたしはシチーに目線を合わせようと顔を動かす。シチーとは目線は合わず、ずっと黙りこくったままだった。
どうしよう、と軽く慌てているとシチーは意を決したように口を開いた。
「本当! さっきの、本当! すっぴんでも別に幻滅しない。アタシはアンタの顔だけが好きなんじゃない、アンタの全部が好きな、の……」
途中まで捲し立てるように喋っていたが、自分の発言の重さに気付いたようで口を塞ぐ。
「な、な……」
不意の告白に言葉を失う。シチーが真っ赤な顔を覆っているけど、自分も負けず劣らず真っ赤な顔に違いない。
もうシチー、この空気どうしてくれんの〜〜!! 耐えられず、あたしは叫んだ。
「もう!! あたしクレンジングしてくるっ!!!」
あたしはリュックの中から旅行用のクレンジングの小袋とフェイスタオルを急いで取り出すと、洗面所へと走った。雑に水道を開くと水が勢い良く流れてきた。あたしはそれを掴んで、何も考えずに顔に浴びせる。顔が熱を帯びているからか、別に寒い季節でもないのに水がいやに冷たく感じられる。
シチーに可愛いって言ってもらえた。
シチーに好きって言ってもらえた。
あたしを守るメイクはどんどん流れていくけど、自信を持ってシチーのところに戻れそうだ、とタオルで顔を押さえながら思った。
後ろからシチーの鋭い指摘が飛んでくる。
……バレた。
「メイク落とさずに寝るのがどんなにヤバいか、アンタもわかってるはずだけど?」
シチーの声色が冷たい。
うん分かってる、と顔を合わせずに心の中で返事する。
ホントかどうかはわからないけど、メイクを落とさずに寝るのは顔に雑巾を乗せて寝るようなものってウマスタで見た気がする。だからあたしは勿論、顔が商売道具のシチーはクレンジングにも人一倍気を遣っている。これはあたし達ウマ娘だけじゃなくて、人間でも化粧するような人達は皆そうっぽい。
でもあたしがメイクを落とさずに床に就こうとしたのには理由がある。あたしはなるべく悲壮感を演出しながらこう言い訳した。
「だってぇ、シチーにガチすっぴん見せるの初めてじゃん……!」
振り向いてシチーの方を見ると、すっぴんでもなお輝きを放つシチーの顔があたしを迎え撃つ。ファンデなしでその肌の綺麗さは反則っしょ……!
あたしが考えていることなんてつゆ知らず、シチーはため息を吐く。
「別に初めてじゃなくない? 夏合宿でも見た気がするし、大体アンタたまにウマライで自分からメイクの解説ファンにしてるでしょ」
「違うし! みんなで遊んだ時は薄メイクだったし、ウマライは加工してるもん! シチーの前でガチすっぴんは初めてなの!」
つい声を荒げてしまった。
あ〜〜もう、あたしのバカ! いくらシチーと二人で初めてのお泊まりだからって、ちょっと緊張しすぎじゃん……!
「……ねぇ、そんなにすっぴん見せるのヤなの?」
シチーが近付き、こちらを見詰める。アイスブルーの瞳が揺れている。不安げな表情でもシチーの顔はキレイで、ますますあたしは自信を無くした。
「……だって、あたしのすっぴん見たらゲンメツするかもじゃん、100年に一度の美少女にあたしが勝てっこねーし」
あーあ、言っちゃった。こんなこと言われてもシチーは困るだけなのに。指を前で組んで、この日のために買い揃えたおろしたてのパジャマの裾を見つめる。
「幻滅なんかするわけないじゃん」
シチーの声が聞こえた。
「……その、髪の毛下ろしてるだけで、普段と全然印象違って、可愛いし。すっぴんもちょっと見たいな、なんて」
段々声が小さくなる。いつもより余裕のなさそうなシチーの声。
胸が高鳴る。あたしがはっと顔を上げると、決まり悪そうに視線を逸らされてしまった。耳も寝てしまっている。
「……今の、ホント?」
思わず聞いてしまった。
「………」
「ね、シチー、何か言ってよ〜〜……」
あたしはシチーに目線を合わせようと顔を動かす。シチーとは目線は合わず、ずっと黙りこくったままだった。
どうしよう、と軽く慌てているとシチーは意を決したように口を開いた。
「本当! さっきの、本当! すっぴんでも別に幻滅しない。アタシはアンタの顔だけが好きなんじゃない、アンタの全部が好きな、の……」
途中まで捲し立てるように喋っていたが、自分の発言の重さに気付いたようで口を塞ぐ。
「な、な……」
不意の告白に言葉を失う。シチーが真っ赤な顔を覆っているけど、自分も負けず劣らず真っ赤な顔に違いない。
もうシチー、この空気どうしてくれんの〜〜!! 耐えられず、あたしは叫んだ。
「もう!! あたしクレンジングしてくるっ!!!」
あたしはリュックの中から旅行用のクレンジングの小袋とフェイスタオルを急いで取り出すと、洗面所へと走った。雑に水道を開くと水が勢い良く流れてきた。あたしはそれを掴んで、何も考えずに顔に浴びせる。顔が熱を帯びているからか、別に寒い季節でもないのに水がいやに冷たく感じられる。
シチーに可愛いって言ってもらえた。
シチーに好きって言ってもらえた。
あたしを守るメイクはどんどん流れていくけど、自信を持ってシチーのところに戻れそうだ、とタオルで顔を押さえながら思った。